Hip-Spine Syndrome 〜股関節と腰の痛み・動かしづらさを考える〜

Hip-Spine Syndrome 〜股関節と腰の痛み・動かしづらさを考える〜
ゆき

この記事を書いている2019年8月現在、僕は訪問リハビリで働くPT(理学療法士)ですが、以前は整形外科の外来リハビリも担当していました。

「股関節が痛い」「腰が痛い」、もしくは、「股関節が動かしづらい」「腰が曲げられない」などの、患者さんがよく訴えていた股関節や腰の疼痛や運動障害
「Hip-Spine Syndrome」を知っていれば、これらに対しての評価やアプローチがしやすいかもしれません。

なこ

ゆきの妻のOT(作業療法士)のなこです。
このブログでは文章のアウトラインは夫、推敲はわたしが行なっています。

PTさんだけでなく、整形疾患のことを知りたいOTさんにとってもできるだけ分かりやすいようにまとめていければと思います。

【この記事で分かること】

「Hip-Spine Syndrome(ヒップ・スパイン・シンドローム)」についての概要、また臨床現場でのPTとしての評価(参考程度の私見)について

Hip-Spine Syndromeとは?

1983年にOffierskiとMacnabによって提唱された概念1)です。

「Hip(股関節)」と「Spine(脊椎 ※主に腰椎)」の不具合により呈する「Syndrome(症候群=臨床症状の総称)」のことで、これらは4つのタイプに分けられるとされています。

Simple Type 股関節、脊椎の両方に変形性変化を認め、病態の主因はいずれか一方であるもの
Complex Type 股関節、脊椎の両方に変形性変化を認め、病態の主因は両方であるもの
Secondary Type

股関節、脊椎のいずれかに主原因があり他方に影響を与えている
(もしくは互いに影響し合っている)もの

Misdiagnosed Type 股関節、脊椎の主原因を誤診したもの
なこ

英語の直訳でなんとなく分かる気もするけど、4タイプの分類は難しい…。

ゆき

平たく言って、股関節疾患もしくは腰椎疾患がある場合は、股関節と腰椎のそれぞれ片方だけではなく両方に注意すべきということと思っていていいよ。

隣接する関節である「股関節−(骨盤)−腰椎」をひとつのかたまりとして考えることが大切です。

PTとしての評価方法

はじめに結論として言いますが、Hip-Spine Syndromeはかなり広い範囲の症状をさすので、一概にこれ、と示せる評価についての文献は見つかりませんでした

ですので、ここからは僕の個人的なやり方ですが、股関節もしくは脊椎(主に腰椎)周辺に対する疼痛や運動障害がある方に対しては、股関節と腰椎の両方について、主に以下の2つの方法で評価するようにしています。

  1. ROM(関節可動域)の計測
  2. 疼痛または運動障害が出る動作の観察

1.形態計測と2.動作分析、とても基本的な評価ですね。

要はこの2つの項目の正常を知っていれば、異常に気づくことができるわけです。

そして異常に気づくことができれば、それに対してアプローチができるという流れになります。

1.のROMに関しては、参考可動域角度が文献に示されているので、異常に気づくことは容易だと思います。

2.の動作分析に関しては、疼痛または運動障害の起こる動作は多岐にわたるので、それぞれの動作すべてを網羅することはできませんが、前屈動作について参考になりそうな文献があったので、その内容を要約して紹介します。

前屈動作に対する評価

身体を前屈した時に腰痛を訴える患者さんに対しては、腰椎だけではなく、股関節も評価します。

正常動作

Lee.R.Yらは、身体前屈の前期では正常であれば腰椎、後期では股関節が主として屈曲すること、また健康な20代男性を対象として、立位中間位から前屈位になるときの股関節と腰椎の角度を検討した結果、以下のように屈曲することを報告しています。2)

対象者

前屈時股関節可動域

前屈時腰椎可動域 前屈時合計可動域
健康な20代男性 平均 約55度 平均 約58度 平均 約113度
ゆき

つまり、正常であれば身体前屈は腰椎から始まって最終的に約58度動き、次いで股関節も約55度動いて、最終的に全体で約113度屈曲する、といえるでしょう。

異常動作

田島らは、全人工股関節置換術(THA)前の変形性股関節症(OA)患者(平均年齢62歳の女性)を対象として、座位前屈動作における股関節と腰椎の動作関係を検討した結果、以下のように論じています。3)

対象者:THA前のOA患者 予想されること

対象者のうち、主に中高年者
腰椎変性が進行していない(場合が多い)
=股関節の可動域制限を腰椎可動性で代償

【前屈時】
股関節可動性<腰椎可動性

・腰椎への負担がかかり、腰痛や腰椎変性などを引き起こす。(※A)
・股関節を動かさなくなり、股関節周囲の軟部組織拘縮や筋力低下を引き起こす。

対象者のうち、主に高齢者
腰椎変性がある(場合が多い)
=腰椎可動性の低下によって、主に股関節で前屈

【前屈時】
股関節可動性>腰椎可動性

・人工骨頭置換術後に前屈位での後方脱臼を起こす危険性がある。
ゆき

つまり、上の表の中で言えば、※Aの場合がHip-Spine Syndromeの4タイプのうち、Secondary Type(股関節、脊椎のいずれかに主原因があり他方に影響を与えているもの)といえるでしょう。

なこ

ちょっとだけ4タイプの分類のことが分かった気がする!

前屈動作に対する評価のまとめ

文献2)と3)で評価している動作が、2)は立位中間位から前屈位になる場合、3)は座位前屈位になる場合、と違いがあるので、評価の際に参考にするには注意が必要です。

文献2)での前屈動作の評価の方法はレントゲンを使っていることから、実際の臨床の評価の場で厳密に前屈時の股関節・腰椎の可動域を測ったりすることに固執しないで、「身体前屈の前期では正常であれば腰椎、後期では股関節が主として屈曲する」こと、また「立位中間位から前屈位になる場合の正常動作時は腰椎>股関節の可動域で動いている」という理解に留めた上で、あくまでも測定ではなく動作観察を行うと良いと思います。

文献3)では座位前屈位になる場合の異常動作として、比較的腰椎変性が進行していない中高年者では腰椎>股関節の可動域で動いているけれども、股関節の可動域制限を腰椎可動性で過度に代償しようとした結果、腰痛や腰椎変性を引き起こす可能性がある(Hip-Spine Syndromeの4タイプのうち、Secondary Typeを引き起こす可能性がある)、と予想しています。

また、腰椎変性が進行している高齢者では、腰椎<股関節の可動域で動いている、としています。

おわりに

・Hip-Spine Syndromeは、「Hip(股関節)」と「Spine(脊椎 ※主に腰椎)」の不具合により呈する「Syndrome(症候群=臨床症状の総称)」のこと。

・隣接する関節である「股関節−(骨盤)−腰椎」をひとつのかたまりとして考え、股関節疾患もしくは脊椎疾患がある場合は、股関節と脊椎の片方だけではなく両方に注意すべき。

ゆき

・股関節の動きが制限されれば腰椎が代償しようとする=股関節疾患の人が腰部症状を訴える
・腰椎の動きが制限されれば股関節が代償しようとする=腰椎疾患の人が股関節症状を訴える
…という臨床像があることを頭において、患者さんの股関節や腰の痛みを評価できるといいですね。

なこ

腰が痛い・動かしづらい方は股関節の動きを出すことやストレッチ、股関節が痛い・動かしづらい方は腰の動きを出すことやストレッチにも注目してみると症状が緩和されるかもしれません。

参考文献

1)Offierski, C. M., Macnab, I.: Hip-Spine Syndrome. Spine, 8(3): 316-321, 1983.
2)Lee, R. Y., Wong, T. K.: Relationship between the movements of the lumbar spine and hip. Hum Mov Sci., 21(4): 481-494, 2002.
3)田島智徳ほか:Hip-Spine Syndrome〜(第10報)変形性股関節症患者における股関節と腰椎の可動域の関係〜. 整形外科と災害外科, 56 巻 4 号:626-629, 2007.